サンディスク(SNDK)のFY2026Q1業績と考察【米国株】

日本時間2025年11月7日の朝に発表されたサンディスクの決算を受けて、業績や投資判断についてまとめました。

目次

サンディスクの最新業績動向と財務状況(FY2026 Q1)

SanDisk(以下、同社)はFY2026第1四半期決算で大幅な業績改善を示しました。売上高は23億1千万ドルと前四半期比+21%の増収となり、会社計画レンジを上回りました[1][2]

調整後1株当たり利益(EPS)は1.22ドルと市場予想の1.02ドルを大きく上回り、GAAPベースでも1億1,200万ドルの純利益(EPS 0.75ドル)を計上し、前四半期の2,300万ドルの赤字から黒字転換しました[3][4]

これはクラウド・AI用途向けNAND需要の急増による販売数量増加と、価格下落の底打ちに伴う粗利益率の改善によるものです。同社は営業キャッシュフロー4億88百万ドル、フリーキャッシュフロー4億38百万ドルを創出し、計画より早くネットキャッシュ(有利子負債を差し引いた正味現金)状態を達成しました[5][6]。これらは在庫調整の進展や内部のコスト管理強化を反映しており、財務基盤は回復基調にあります。

足元の好調を受けて、同社はFY2026第2四半期のガイダンスを上方修正しました。売上高は25.5~26.5億ドル(中央値で前年同期比+20%)、調整後EPSは3.00~3.40ドルと強気な見通しを示しており、AIやクラウド向け需要の追い風が継続するとしています[7][8]

また、2025年末にかけての需要拡大を背景に取引先との長期供給契約も進展しており、一部顧客からは2027年分の供給確保についての打診が始まるなど、需給ひっ迫が想定より長引く見通しです[9][10]

これらの動きは中長期の収益予見性を高める材料と言え、同社の株価も決算発表後に上昇し年初来高値を更新しました[11]。もっとも、メモリ市況は周期変動が激しいため、投資家は好調な局面がいつまで持続するかを注視する必要があります。

NAND型フラッシュメモリ市場の成長見通しと需給環境

NANDフラッシュ市場は2024年に底入れし、2025年以降に力強い回復局面に入っています。業界調査によれば2025年の世界NAND市場規模は前年比+50%増の911億ドルに達し過去最高を更新する見通しであり[12]、2026年には650億ドル、2027年には700億ドル規模まで拡大するとする予測もあります[13]

この成長を牽引するのは生成AIブームによるデータ需要の爆発であり、2026年にはNANDビット需給の5分の1がAI用途に向けられ、市場価値ベースでは34%がAI関連需要になるとの試算もあります[13]。つまり今後数年間はAI・クラウドを中心にメモリ需要が構造的に底上げされると見込まれます。

需給面では、2023年まで続いた供給過剰と価格下落局面を経て、2024年後半から在庫調整と減産の効果で市場は均衡に近づきました[14]。加えて2025年に入り、HDD(ハードディスク)の供給不足に直面したクラウド事業者がQLC NAND搭載エンタープライズSSDへの急遽シフトを図ったことから、従来予想を上回る注文が流入しています[15][16]

実際、SanDiskは2025年9月に業界でいち早くNAND製品の価格10%以上引き上げを表明し、Micronも一時価格提示を停止するなど、市場心理は一転して強気に傾きました[17]

その結果、2025年第4四半期のNAND契約価格は前四半期比5~10%上昇するとの観測が出ています[18]。供給側では、各社とも新規の大規模設備投資は慎重で、先端プロセスへの移行によるコスト削減に注力している状況です[14]

一部の大手(SamsungやKioxiaなど)は2025年~2026年に次世代工場稼働を計画していますが[19]、足元では在庫圧縮と高付加価値製品へのシフトで供給量を抑制し、価格競争の回避に努めています[14][20]

需要側を見ると、モバイル・PC向けは依然弱含みで、スマートフォンメーカーの在庫調整や消費低迷が続いています[21]。一方でサーバー・データセンター向けでは2024年前半までに在庫消化が完了し、米国クラウド各社が新規調達を再開したことで企業向けSSD需要が急増しています[22][23]

特に北米のクラウド大手は、NVIDIAの新型AIチップ出荷やHDD不足を背景に、高容量SSD(120TB超クラス)を大量導入する動きを強めており、2026年にはNAND市場においてデータセンター向けがモバイル向けを初めて上回る最大セグメントになると予想されています[24]

このように需要の中心がモバイルからデータセンターへシフトし顧客層が広がることは、価格交渉や需給の構図にも変化をもたらしつつあります[24][25]

総じて、現時点のNAND市場は需給逼迫による価格上昇トレンドにあります。AI・クラウド主導で少なくとも2026年末までは供給不足が続くとの見方が有力で[26][27]、SanDiskも自社Fab(製造拠点)がフル稼働で減耗した在庫の補充に追われている状況です[28]

ただし、この好況期の先には各社の増産投資や中国勢の台頭によるサイクル反転リスクも潜在しており、当面は需給動向に一喜一憂しやすい環境と言えます。

SanDiskの技術ロードマップと製品ポジショニング

SanDisk(および共同開発パートナーのKioxia)は、BiCS(Bit Cost Scaling)技術による3D NANDの世代開発をリードしてきました。同社は第6世代まで回路素子をセルアレイ下に形成するCUA (Circuit-Under-Array)構造を採用し微細化を追求してきましたが、最新の第8世代BiCS8では中国YMTCが先行した手法に倣い、制御回路素子とセルアレイを別ウエハーで製造後に接合する3D積層技術(いわゆるCBA: CMOS Bonded to Array)を導入しました[29][30]

BiCS8は218層の3D NANDであり、層数自体はSamsungやSK hynix/Micronの232~238層に見劣りするものの[31]横方向および縦方向のセル寸法縮小によりビット密度を業界最高水準まで高めています[32]。WD社CTOの発言によれば「層数だけでなくセル密度最適化によって、小さいダイでより多くの容量を達成し、コスト効率を高めた」とされ[33][34]、実際BiCS8は従来世代(BiCS6: 162層)比でIO帯域60%向上(3.2Gb/s→5.0Gb/s)、書き込み性能20%改善を果たしています[35]

また消費電力面でも改善し、データ書込み時のレイテンシ低減も実現しました[36]。第7世代BiCSは開発中止となりましたが、BiCS8の量産立ち上げは順調で、2025年9月にサンプル出荷から量産へ移行しています[37][19]。同社はFY2026 Q1時点で出荷ビットの15%をBiCS8が占めたと明らかにしており、FY2026末までにBiCS8が生産ビットの過半を占める計画です[25]

技術ロードマップ上、SanDisk/Kioxiaは第9世代BiCS9および第10世代BiCS10の開発も公表しています。2025年2月のISSCCでは「第10世代3Dフラッシュメモリ技術」プレビューとして、332層への層数増加と新インターフェースToggle DDR 6.0(オンディエ新コマンドバスSCA方式)の採用によって4.8Gb/sもの高速I/Oインターフェースを実現する計画が発表されました[38]

これは現行BiCS8比でインターフェース速度33%高速化、データ入出力時の消費電力もそれぞれ10%・34%削減と、データセンター用途で重要な性能と省電力性の大幅向上を狙ったものです[38]。またBiCS10ではメモリセル層数を332層に引き上げるとともにフロアプラン最適化で平面密度を向上させ、BiCS8比でビット当たり密度を59%高める成果が示されています[39]

一方、第9世代BiCS9については、既存セル技術に新CMOS技術を組み合わせる形で資本効率を重視した高性能・低消費電力品を開発中であるとされています[40]。このように同社はAI時代の大容量・高帯域要求に応えるべく技術革新を続けており、特に「高帯域フラッシュ (HBF)」と呼ぶ新コンセプトへの取り組みも始めています。

具体的にはSK hynixと提携し、NANDを高速スタック接続してHBM(高帯域メモリ)に迫る帯域を実現する技術の検討を進めており、AI推論ワークロード向けのストレージ高速化ソリューションとして顧客と協働中です[41]。これはAIインフラ向け新市場の開拓につながる可能性があり、中長期的な差別化要因として注目されます。

製品ポジショニングの面では、SanDiskは幅広いエンドマーケットを対象にNANDソリューションを提供しています。クライアントSSD分野ではPC・ゲーム機向けに強みを持ち、市場シェア25%で世界トップクラスに位置します[42]

実際、PlayStationやXbox向けSSDの供給実績もあり、性能重視のハイエンドからコスト重視のバリューSSDまでフルラインナップを揃えています[42]

モバイル向けにはUFSやeMMCなど組込みストレージを展開し、IoT・車載向けの高耐久フラッシュも手掛けています[43]。さらにコンシューマー市場では、SanDiskブランドのSDカードやUSBメモリで高い知名度を持ち続けています。

近年特に力を入れているのがデータセンター向けエンタープライズSSDで、QLC NANDを用いた高容量ドライブ「Stargate(128TB級)」シリーズを開発し、大手ハイパースケーラーへの提案を進めています[44]

256TBもの驚異的容量を持つNVMe SSD(UltraQLC)も披露しており[45]、コールドデータの高速データレイク用途など新分野を開拓中です。こうした製品ポートフォリオ戦略により、同社は従来モバイル中心だった売上構成をデータセンター向けへシフトさせつつあります。

実際、2026年にはデータセンター向けが同社NAND売上の最大セグメントになる見通しであり[24]「フラッシュメモリ=スマホ用」という従来の図式を塗り替える転換点となるでしょう。

Samsung、SK hynix、Micron、Kioxiaなど主要競合との比較

図: 2025年NANDフラッシュ市場シェア(メーカー別)(推定): グローバルのNANDフラッシュ市場は上位5社で約92%を占める寡占状態です。首位はSamsung Electronics(韓国)で約31%、次いでSK hynix(韓国、Intel買収分含む)が18%、Kioxia(日本)が17%、Western Digital(SanDisk)(米国)が15%、Micron(米国)が11%となっています[46][47]

サムスンは十年以上にわたりNAND分野で圧倒的リーダーの地位を占めており、巨額投資による最先端プロセスと大規模生産でコスト競争力と技術力の両面に優れています[48]。例えば業界初のV-NAND(3D NAND)量産や200層超デバイスの先行など、技術的マイルストーンを牽引してきました。

SK hynixは元々DRAM大手ですが、2021年のIntel NAND事業買収で一躍NANDシェア2位グループに浮上しました[49]。データセンター向け高性能SSDブランド「Solidigm」を傘下に持ち、PC・モバイルから企業用途までバランスよく展開しています[50]。Kioxia(旧東芝メモリ)はNAND発明企業として技術開発に定評がありますが、経営面では浮沈があり2018年以降は米投資ファンド支援の下で再建中です[51]

同社はWestern DigitalとのJVによる製造協業でシェア3位を維持しています[52]。Western Digital(SanDisk)は2016年にSanDiskを買収してNAND事業へ本格参入した経緯があり[53]、以来Kioxiaとの共同生産を武器に容量当たりコストの削減を追求しています。

Micronは米国勢として唯一DRAMとNANDの両方を手掛けるメーカーで、技術力の高さで評価されています[54]。232層3D NANDを世界に先駆けて開発するなど先端競争では存在感がありますが、市場シェアは約1割に留まり規模の面で韓国・日本勢に劣ります[55]

この上位5社以外では、中国のYMTC(長江存儲)が一時グローバル5%前後のシェアを獲得しましたが、米国の制裁強化により2025年Q2時点でシェア5%未満に低下したと報じられています[56]。もっともYMTCは中国政府から巨額支援を受けており、「2026年末までに世界シェア15%を目指す」といった計画も伝えられるなど油断できない競合です[57]。他に台湾のMacronixや米国Pure Storage(自社用途開発)などもありますが、いずれも市場影響は限定的です。

技術面の優位性を比較すると、製造プロセス世代と層数ではSamsung、SK hynix、Micronの3社が最先端238層クラスで拮抗しており、Kioxia/WDは前述の通り218層BiCS8で一段劣る層数です[31]。しかしKioxia/WD連合はセルあたり面積縮小による高密度化で巻き返しを図り、1チップ容量1Tb(テラビット)QLCを他社と同等水準で実現しています[58]

IO速度ではMicronが176層世代から早くもONFI 4.0 (≒1.6~2.0Gb/s)を採用し高速化をリードしましたが、SamsungやKioxia/WDもToggle方式で追随しつつあります。将来ロードマップでは500層近いNANDが各社から示唆されており、2027年前後には4000MT/秒級の高速インターフェースと合わせて実現する見込みです[59]

コスト構造の面では、サムスンの圧倒的規模メリットが際立ちます。自社でコントローラなど周辺技術も内製化できる垂直統合により、付加価値の高い製品展開と原価低減を両立しています。

SK hynixもIntel由来の先端工場(大連工場)を継承し生産能力を増強、加えて韓国国内に巨大ファブ群(清州など)を有し規模効果を享受しています。

KioxiaとSanDiskはJVを通じて設備投資・開発費用を折半することでコスト競争力を確保していますが、それでも単独トップのSamsungに比べ規模は半分程度であり、収益性では劣後しがちです。

実際、価格下落局面の2022~2023年にKioxia/WDは赤字に転落し設備投資を抑制しましたが、SamsungはNAND事業の赤字をDRAMやロジック部門の利益で補填し戦略的減産を行わないなど、体力の差が現れました。

またMicronはシェアこそ小さいものの、DRAM事業と製造設備を一部共有することでコスト効率を高めています。2023年には日本政府支援で広島工場への投資も発表しており、将来的な生産効率向上が期待されます。

一方、中国YMTCは最先端EUV装置などの輸入が規制されており生産技術で劣るものの、中国国内の低価格スマートフォンメーカーやSSDモジュールメーカーに照準を合わせた安価な3D NANDを武器に、価格競争力で存在感を示す可能性があります。

総合すると、SanDiskは技術力ではトップグループに迫りつつも、規模・資本力ではサムスンに大きく水をあけられている状況です。他の主要プレイヤーも含めNAND業界は寡占的でありながら各社のビジネスモデルや強みは様々で、シェアや優位性は市場セグメントごとに異なります。SanDiskとしてはJVパートナーのKioxiaとの連携強化付加価値製品(高容量QLC SSDや将来のHBFなど)への注力によって、差別化と収益力向上を図る戦略が求められます。

ハイパースケール顧客と戦略的提携

SanDiskの顧客基盤を見ると、近年はハイパースケール(超大規模)クラウド事業者が重要度を増しています。AWS、Microsoft Azure、Google Cloud、Metaといった米国主要企業のほか、国際的なクラウド・サーバーメーカーが同社エンタープライズSSDの主要顧客です。

同社は現在5社の主要ハイパースケーラーと深いエンゲージメントを持ち、そのうち2社とは既に製品資格試験(qualification)を進め、さらに第3のハイパースケーラーおよび大手ストレージOEM向けにも2026年に製品投入を計画しています[25]

例えば先述のStargate 128T QLC SSDは2社のクラウドプロバイダで評価中であり、3社目のハイパースケーラーと大手機器メーカーにも展開予定とされます[44]。また、SanDiskはこれらデータセンター顧客に対し製品ロードマップや容量拡張計画を事前共有し、将来需要に対応するための長期協力関係を構築しつつあります[60][61]

CEOのDavid Goeckeler氏も「データセンター向け顧客はモバイルとは異なる多様な顔触れであり、今後の需要見通しや購買行動に変化が生じている」と述べており[62][63]、同社は大口顧客とのパートナーシップ強化によって需給見通しの可視性を高めているようです。

従来の主要顧客であったスマートフォン向け(モバイルOEM)については、KioxiaとのJVを通じAppleや主要スマホメーカーに間接供給してきました。もっともモバイル向けNAND市場ではMicronが撤退を検討するなど構造変化が進んでおり[64]、SamsungやSK hynix(Solidigm経由含む)に次ぐ地位のKioxia/WD連合としては、市場縮小や中国勢台頭のリスクがあります。

そのため、今後は自動車・産業機器・IoTなど新規用途や、前述のクラウド向けに経営資源をシフトする戦略が重要です。車載向けでは高耐久SLCフラッシュ「XL-Flash」など製品展開しており、電装メーカーとの協業関係も構築しています。

戦略的提携としては、なんと言ってもKioxia(キオクシア)とのフラッシュメモリ共同事業(JV)が中核です。SanDiskは2010年代から東芝メモリと提携し、現在も日本(三重県四日市工場や岩手県北上工場)におけるフラッシュメモリ製造を50:50出資の合弁事業で行っています[65]

このJVにより両社は巨額の製造設備投資を分担し、生産されたNANDウェハーを折半して各自の顧客に販売しています。Western Digital社(旧SanDisk買収元)は2025年2月の事業分割後もSanDisk株式の一定割合を保有しており[66]、引き続き戦略的パートナーシップが維持されています。

JV以外では、前述のSK hynixとのHBF開発協力も注目されます。SK hynixは高帯域メモリHBMで実績がありますが、SanDiskは自社のNAND技術とのシナジーで新たな付加価値メモリ市場を共創しようとしています[41]

また、データセンター向けにはサーバーメーカー(DellやHPE等)との協業で自社SSD採用を推進し、コンシューマ向けではゲーム機メーカー(Sony、Microsoft)とも連携したカスタムSSD開発を行っています。こうした産業内外のパートナーとの強固な関係網は、同社の製品展開力とマーケットアクセスにおいて重要な資産となっています。

SanDiskに最も影響を与える競合・市場要因

NAND業界は寡占とはいえ、各競合の戦略・市場行動が価格やシェアに大きな影響を及ぼす産業です。その中でもSanDiskにとって特に重要なのは、最大手Samsungの動向と言えます。サムスンはシェア・コスト両面で業界をリードしているため、同社が供給量を増減したり価格戦略を変更した場合、市場全体の需給バランスや価格帯が左右されます。例えば、需要低迷期にサムスンが減産に消極的な場合には価格下落圧力が高まり、規模で劣るSanDiskは収益面で大きな打撃を受けかねません。

またサムスンが他社に先行して画期的な新技術(次世代セルや高速I/F等)を製品化すれば、SanDiskはシェアを奪われる可能性があります。したがって、サムスンの技術・投資ロードマップと市場戦略は常に注視すべきファクターです。

次に重要なのは、需給サイクルを左右するマクロ要因です。NAND需要はスマホやPCといった最終製品の売れ行きや、クラウド事業者の設備投資計画に大きく影響されます。例えばスマートフォン市場の成長停滞やPC需要減速が起きれば、SanDiskのクライアント向けNAND販売は落ち込みます。逆に生成AIブームによるデータセンター投資拡大は追い風です。

このようにエンド市場の景気循環がNAND需要を増減させ、ひいては価格サイクルにも波及します。また、クラウド大手など主要顧客の購買行動も鍵となります。ハイパースケーラーは需給逼迫を見越して前倒し発注や在庫積み増しを行うことがありますが、需給が緩和すれば発注を急激に絞る可能性もあります。SanDiskにとっては少数大口顧客への依存が高まっているため、これら顧客の発注スタンス変化は業績ボラティリティ要因となり得ます。

技術面の競争要因としては、製造コストと歩留まりの差が挙げられます。NANDフラッシュは微細化・層数化に伴い製造が複雑化しており、各社の量産技術力や良品率によってコスト構造に差が生まれます。SanDisk(WD)はKioxiaとの共同開発で技術を追求していますが、自己資本で巨額投資できるサムスンやSK hynixに比べ資金面で制約があります。

そのため、競合が大型投資で一気に生産能力を上げたり新技術投入を加速すれば、SanDiskは後手に回るリスクがあります。特に中国勢の台頭は無視できません。

YMTCなどが国家支援でキャパシティを拡大し低価格品を出荷すれば、特に汎用品市場で価格破壊が起き、SanDiskも値下げを迫られる懸念があります[67]。現状では制裁により中国メーカーの最先端参加は限定的ですが、中長期的に中国市場(スマホやPC)で国産NANDへの置換が進めば、従来それらに供給していたKioxia/WD連合には逆風となります。

市場環境要因としては、為替レートや素材価格も見逃せません。NANDの国際取引価格はドル建てであり、円高・ドル安になれば日本に生産拠点を持つSanDisk(KioxiaとのJV)は相対的に不利になります。原材料や製造装置の価格変動もコストに直結します。

シリコンウェハーや特殊ガスなど供給制約がある材料の価格高騰や、EUV露光装置など装置納期の遅延は、生産コスト増大や増産計画の遅れにつながります。加えて、NAND工場は地震など自然災害や停電のリスクも孕んでおり、実際2022年にはKioxia四日市工場でのコンタミ事故が市況に影響しました。そうしたサプライチェーン上のリスク要因も同社業績にインパクトを与え得る点に留意が必要です。

主なリスク要因:米中摩擦、供給制約、価格サイクル反転など

中長期の投資判断にあたり、SanDiskを取り巻くリスク要因も評価しておく必要があります。まず挙げられるのが米中間の摩擦激化による影響です。米国政府は中国半導体産業への輸出規制を強化しており、その報復として中国政府が米系半導体企業を市場から締め出す措置を講じるケースが出ています。

実際、中国は2023年にMicron製品の重要インフラ向け使用を禁止し、Micronは中国データセンター向け事業からの撤退を余儀なくされました[68][69]。Micronの中国売上(全体の12%)が失われたことはSamsungやSK hynix、さらにはYMTCなど競合各社にとってシェア拡大の好機となりました[67]。SanDisk(WD)も生産拠点こそ日本にありますが、中国市場は無視できない需要先であり、今後中国による対米企業規制の拡大があれば同社にもマイナスです。

一方で米国は中国メーカーYMTCへの先端装置輸出を禁止し、そのシェア拡大を抑えています[56]。この規制が将来緩和されればYMTCが一気に存在感を増すリスクがあります。加えて地政学リスクとしては、台湾有事などサプライチェーン分断が現実化した場合、日本に製造拠点を持つSanDiskも部材調達面で影響を受ける恐れがあります。

供給面の制約とボトルネックもリスク要因です。現在は各社が減産に努め供給過剰を抑えていますが、今後AI需要を見越して大規模増産に転じる可能性があります。特にSamsungは巨額投資計画(韓国やテキサス州の新ファブ)を公表しており、2026~2027年にかけて新工場が稼働すると一気に供給が拡大する懸念があります。

また日本のKioxiaも政府補助を受けて岩手・北上のK2工場を2025年秋に量産開始予定で、生産能力を増強します[19]。これらが順調に立ち上がれば、現在の逼迫は緩和され2027年以降に供給過剰へ振れるリスクがあります。加えて、製造装置メーカーの増産能力や半導体人材の確保もネックとなり得ます。需要が想定以上に伸びても装置供給が追いつかない場合、SanDiskは増産したくてもできずシェア機会損失に繋がりますし、逆に需要減少局面で過剰装置投資が仇となるリスクもあります。

そしてメモリ価格サイクルの反転リスクは常に念頭に置くべきです。NANDフラッシュは過去にも2~3年周期で需給が逼迫と緩和を繰り返し、その度に価格が乱高下してきました。現在はAI特需に支えられていますが、例えばAI需要の一巡やクラウド投資サイクルの一服、あるいは需要側の技術革新(データ圧縮や新型ストレージ技術の台頭など)により需要成長が減速すれば、市場は再び供給超過に転じます。

特にQLC NANDの寿命・信頼性向上によってHDD需要を一部侵食していますが、もしクラウド事業者がコスト優先でHDDに大きく回帰すればSSD需要は想定を下回る可能性もあります。価格下落局面では各社とも利益が急減し、SanDiskも例外ではありません。実際、前回サイクルでは同社は大幅赤字に陥りました。投資家はメモリ株のボラティリティを念頭に、中長期とはいえ6ヶ月~1年程度で需給が一変し得る点を認識しておく必要があります。

その他のリスク要因としては、JVパートナーであるKioxiaの経営問題が挙げられます。Kioxiaは2022~2023年に巨額の最終赤字を計上しており、計画していたIPO(新規株式公開)も延期されました[70]。Bain Capitalなど大株主の意向次第では事業戦略が変化し、WDとの協調関係に影響が出る可能性もあります。ただし日本政府の支援やメガバンク融資により当面の資金繰りは確保されており[71][72]、直ちにJV解消の懸念は小さいでしょう。むしろ将来的にはKioxiaとSanDiskの経営統合や他社との連携(以前報じられたSK hynix含めた再編シナリオなど[73])も考えられ、業界再編動向も不確実性要因です。

投資家へのインサイトと結論

以上の分析を踏まえると、SanDisk(SNDK)は中長期(6ヶ月~数年)視点で有望な成長局面に差し掛かっていると言えます。直近の業績はデータセンター需要の爆発的増加と供給制約に支えられ急回復しており、価格主導権と収益力を取り戻しつつある点はポジティブです。加えて技術ロードマップを見ると、BiCS8の量産寄与が本格化し最先端世代へのキャッチアップが進むほか、QLC超大容量SSDや将来の高帯域フラッシュなど付加価値領域への展開で競争力強化が期待できます。主要顧客との関係も良好で、AI時代の需要を取り込むポジショニングは整っています。

他方、メモリ産業特有のリスクも忘れてはなりません。歴史的に見て好況は永続せず、供給拡大や需要減速によりサイクルの山谷が巡るのは避けられません。米中対立や地政学リスクも予断を許さず、不確実性は依然高いです。そのため投資スタンスとしては強気と慎重さのバランスが重要です。現在、多くのアナリストはメモリ市況の回復を理由にSanDiskやMicron、SK hynixなどを一斉に強気に格上げしています[11]。短期的には株価のモメンタムも良好でしょう。しかし投資家は、数四半期先の需給動向や競争環境の変化に目を配りつつ、適切なリスク管理を行う必要があります。総合的には、SanDiskはAI・クラウド時代の波に乗った成長銘柄として中期的な収益拡大が見込める一方、その投資リターンはメモリ市場の波と不可分であることを肝に銘じておくべきでしょう。

Sources:


[11] [13] [64] Global Dram And Nand Market Outlook 2025–2026: Ai Demand Sparks New Wave Of Price Hikes

http://www.axtekic.com/news/global-dram-and-nand-market-outlook-2025%E2%80%932026:-ai-demand-sparks-new-wave-of-price-hikes.html

[12] [19] [70] [71] [72] [73] Kioxia expects explosive demand for NAND, to introduce equipment to expand production

[14] [15] [16] [17] [18] [20] [21] [22] [23] NAND Flash Prices to Rise 5–10% in 4Q25, Driven by Spillover Demand for QLC Products, Says TrendForce

[29] [30] [31] [32] [33] [34] [35] [36] [37] [58] Kioxia and WD’s BiCS 8 tech takes YMTC route: Separately fabs NAND control logic and cell stacks – Blocks and Files

[38] [39] [40] Kioxia and Sandisk Unveil Next-Generation 3D Flash Memory Technology Achieving 4.8Gb/s NAND Interface Speed | KIOXIA – United States (English)

[42] [43] [65] [66] Western Digital Splits In Two As Sandisk Reemerges

[44] Pricing Uptrend Continues; Data Center Core Engine Next Year

[45] Sandisk Showcases UltraQLC Technology Platform with Milestone …

[46] [47] [48] [49] [50] [51] [52] [53] [54] [55] GetUSB.info » Top 5 NAND Flash Memory Manufacturers in the World as of 2025

[56] China’s premier memory-maker YMTC struggles amid chokehold of …

[57] [News] China’s YMTC Launches $3B Wuhan Phase III Venture …

[59] Inside the future of 3D NAND: The roadmap to 500 layers

[60] [61] [62] [63] Sandisk Corporation_2025-11-06_transcript.pdf

[67] [68] [69] Exclusive: Micron to exit server chips business in China after ban, sources say | Reuters

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